暗黒の魔人編 第2章
enchaさん作

作成:02/11/16


1ヵ月後・・・。
「あれから1度もお見えになりませんね?フェニックス様は。」
I&I社の本社ビルの最上階、会長室の隣にある会長秘書室の奥にある室長室でリリア・バルバロッサと、その双子の妹のイリアが話をしていた。
「先日行われた役員会議にも来なかった・・・。お姉さまと話をした時は『役員会議の席上で、自分の正当性を訴える』と言っていたそうですが・・・。」
「おそらくそれどころでは無いのでしょう。」
コ−ヒ−カップをテ−ブルに置きながらリリアはそう答えた。
「やはりあれは事件なのでしょうか?フェニックス様もからんでいる・・・。」
「警察はそう見ているようね。」
・・・1ヶ月前、フェニックスが最後にI&I本社ビルに姿を現した翌日。
フェニックスが所有していた高級マンションで6人の黒服の男達の死体が発見された。死体はいずれもマンション地下のカレ−ジで逆さ吊りにされており、その身体には数十本のナイフが突き刺されていた。現場に踏み込んだ警察が奇妙に思ったのは、6人の死体が円を画いているように吊るされていた事、死体の血を使って描かれたと思われる床の六芒星の魔法陣、そして魔法陣の中央に置かれていた小さなテ−ブルと数十本の筆、死体から流れ出た血を集めていたであろう数十枚の小皿・・・。
警察は6人の身元と、マンションの所有者で現在行方が分からないフェニックス・J・クロフォ−ドの所在の確認を急いでいた。
「一体何が起こったというのでしょう?あそこで・・・。」
「何か大変な事が起こらなければいいのですが・・・、もしもグリフォン様に災いが起こるような事にでもなれば・・・。」
「警察から事情をお聞きしたいので後ほどこちらにお伺いする、と連絡が来ていたようでしたが。」
「警察には私からお話します、一応最後にフェニックス様と会ったのは私なのですからね。」
「わかりました。警察が来たら室長の所に案内するように、と受付の方に伝えておきます。」
そう言うとイリアは部屋を出て行った。
「・・・どうやらクロフォ−ド家の方にも警察が出向いているとか・・・。何処までもクロフォ−ド家にとってあの方は・・・。」
リリアはそう独語した。


そのフェニックスは・・・、決闘者の王国(デュエリスト・キングダム)のある洋上の島にいた。
「・・・完成した・・・。」
フェニックス、いや、フェニックスを操っている闇の世界の住人・ミストは、部屋の壁一面に描かれた巨大な魔法陣に安置されている3枚のカ−ドを見ながら呟いた。
「・・・ご苦労だったな、フェニックス。ではお前にこの身体を返そう・・・。」
フェニックスの身体から黒い煙が噴出した、その煙は人間の上半身に近い形を形成していく。
・・・どうだ、気分は・・・
脳に直接語りかけてくるミストの声を聞いたフェニックスは目を開けた。
「コ、ココは?」
フェニックスは自分が今、何処にいるのか分からなかった。
・・・ココはお前の兄、ペガサス・J・クロフォ−ドが眠る島・・・
「兄が眠る・・・、島?」
・・・あそこを見るがいい・・・
フェニックスはミストが指差した方向を見た、そしてその方向に歩き出した。
今、自分の立っている室内テラスのような場所から、昇降式のデュエルテ−ブルが見えた。
・・・この場所はかつてペガサスと武藤遊戯がデュエルした場所、と同時にペガサスが命を落とした場所でもある・・・
「コ、ココが・・・。」
・・・さて、お前にやってもらいたい事が2つある・・・
「何デス?」
・・・まず腕利きのデュエリストを2人ばかり用意してもらいたい・・・
「腕利きのデュエリスト?」
・・・魔人カ−ドを使わせる為だ、1度で全ての神のカ−ドを手に入れられると考えない方が得策であろうからな・・・
「ククッ・・・、案外弱気な発言デスネ〜。」
・・・そうかな?オベリスクの巨神兵を持った海馬瀬人や、太陽神(ラ−)の翼神竜を持ったマリク・イシュタ−ル、そしてオシリスの天空竜を持たされたマリクの操る人形をも退けた武藤遊戯・・・
「ナルホド・・・。総力戦は極力避けたい、という事デスネ〜。」
・・・・・・・・・・。
・・・もう1つは、この女をココに連れて来てもらいたい・・・
そう言うとミストは1枚の写真をフェニックスに差し出した。
「この少女は?」
・・・武藤遊戯の仲間、真崎杏子・・・
「遊戯ボ−イのガ−ルフレンドデスネ?」
・・・その女をこちらの手中に収めれば、武藤遊戯はココに来ざるを得まい、嫌でもな・・・
「2日、時間を下サ〜イ。」
・・・よかろう・・・


プルルルル・・・、プルルルル・・・。
「遊戯、電話じゃぞい!」
1階で双六が呼んでいる。
「電話、誰からだろう?」
遊戯は自分の部屋を出て、双六から受話器を受け取った。
「杏子ちゃんの家からじゃぞい。」
「杏子の?」
モシモシ、遊戯が電話に出た。電話の相手は杏子の母親だった。
「アッ遊戯君。実はウチの杏子が・・・。」
「エッ!行方不明!杏子が?」
「実は・・・。」
杏子は一昨日の放課後、「明日の土曜日、ダンスのオ−ディションを受ける為に、隣町の尾間似(びまに)町のオ−ディション会場に行って来るわ。」と、遊戯達に話していた。昨日の夜、オ−ディションの結果を知らせる電話が杏子から来なかったので、疲れて寝てしまったと思ってたのに・・・。
「ボク、心当たりを探しに行って来ます!」
「私は警察に連絡するわ。」
と言って杏子の母は電話を切った。
「じいちゃん、杏子が行方不明になったって!ボク、探しに行って来るよ!」
「ワシも後で杏子ちゃんを探しに行く、気を付けて行くのじゃぞ!」
「わかった!」
遊戯は家を飛び出した、何気なく自分の部屋の窓の方を見た。
(まさか!羽蛾クンみたいに・・・)
遊戯は走り出した。
(何処に行ったんだ、杏子!)
遊戯は杏子が立ち寄りそうな場所を何箇所か回った、しかし杏子の姿は無かった。
「こうなったら尾間似町まで行ってみるか・・・。」
遊戯はバス停で尾間似町行きのバスが来るのを待った。
「ンッ?」
遊戯は道路の反対方向を見た、数人の黒服の男達が誰かの名を呼びながら走っていた。道路の向こう側なので何て言っているのかは分からなかったが・・・。
「あれは海馬君の部下の・・・。」
「遊戯!」
今度は遊戯の右手の方から声がした。
「城乃内君!」
向こうからオ−プンカ−が近付いて来る。そのオ−プンカ−の後部座席に乗っていた城乃内が手を振っている、運転席には孔雀舞、助手席には城乃内の妹、静香の姿があった。
「城乃内君!どうしたの?」
「遊戯のじいさんから杏子が行方不明になったって連絡が来てな、こうして舞の車で探してたところよ。ところで何で遊戯はココに?」
「昨日、杏子は隣町の尾間似町に行ったはずなんだ、そこに行こうと思って。」
「乗りな!遊戯。」
運転席の舞が遊戯に言った、遊戯は城乃内が座る後部座席に乗り込んだ。
ブオオオオオーーー!!!
「それにしても遊戯、何で杏子に付いて行ってやらなかったんだい?」
バッックミラ−に映る遊戯を見ながら舞が聞いた。
「昨日のオ−ディションは・・・、杏子の夢への第一歩だったから・・・。」
「全くもう、あんた達は・・・。」
「それよりも何で城乃内君と舞さんが一緒に?」
「エッ!」
舞が一瞬、息を呑んだ。
「あ、あたしは静香ちゃんに用があって城乃内の家に行ったんだけど、外で静香ちゃんと話をしてたら城乃内が『杏子が行方不明になった!』って言って飛び出して来たものだから・・・。」
「一体何処に行っちまったんだ?杏子は。」
「その事なんだけど・・・、気になる事があるんだ。」
遊戯は1ヶ月前の話をした。夢の事、そして羽蛾の事を・・・。
「何それ?」
遊戯の話を聞いた舞の第一声だった。
「あの時の羽蛾クンは誰かに操られていたような感じだったんだ。もしあの時、羽蛾クンを操っていたヤツに杏子がさらわれたとしたら・・・。」
「でもそんなマネが出来るって一体どんなヤツなのかしら?」
「何かのトリックじゃねぇか?それともあの虫野郎のこった、変な虫にでも刺されたんじゃねぇか?」
「杏子・・・。」
遊戯は千年パズルを握り締めた。
(お願い、杏子が何処にいるのか教えて・・・)
ドン!遊戯の人格が入れ替わり闇遊戯が現れた。
「遊戯?」
「舞、海馬コ−ポレ−ションに行ってくれないか?」
「海馬コ−ポレ−ション?」
「相棒が千年パズルを握りながら杏子の事を考えていた時、オレには海馬の慌てた表情が見えた。それに、さっきのバス停で海馬の部下達が慌ただしく何かを探していたようだったのも気になる・・・。」
「何か手掛かりでも出てくればいいけど。」
ギュアアアーーー!!!
舞の車が交差点を猛スピ−ドで曲がった。


「モクバ様!モクバ様!」
海馬コ−ポレ−ション周辺にも、海馬の部下達が何人かいた。しかも海馬の弟、モクバの名前を呼んでいた。
キッ!!!舞の車がブレ−キをかけた。その音を聞いて海馬の部下の1人、磯野が近付いてきた。
「お、お前達は?」
「何かあったのか?」
後部座席の城乃内が聞いた。
「お前達には関係無い。が、参考の為に1つ聞きたい、モクバ様を見かけなかったか?」
「モクバ?」
「知らなければいいのだ、お前達のは関係無いのだからな。」
「いや、そうでもなさそうだぞ。」
「海馬様!」
遊戯や磯野が声のした方を見ると、海馬瀬人が立っていた。
「磯野、モクバを探しに行っている部下達を呼び戻せ。」
「ハッ!しかしモクバ様はまだ・・・。」
「モクバの居場所は分かった。オレはこれからモクバのいる場所に向かう、ヘリの用意をしておけ。」
「ハッ!」
海馬が舞の車に近付いて来た、磯野は海馬の指示をスタッフに知らせる為に建物の中に入っていった。
「お前達、あの女を捜しているのだろう?」
「あの女?杏子の事か?」
遊戯が海馬にそう言った。
「どういう経緯かは知らんが、その女とモクバが一緒にいるようだ。しかも意外な場所にな。」
「意外な場所?」
「・・・決闘者の王国。ペガサスの城があったあの島だ。」
「王国だって!」
「おい海馬!どうしてそんな事、お前が知ってんだよ!」
城乃内が海馬に食って掛かった。
それに対して海馬は、
「来るがいい。」
と言って建物に向かって歩き出した。
「あの野郎!」
城乃内が車から飛び降りた。その城乃内の肩を遊戯がつかんだ。
「待つんだ、城乃内君。今は海馬の言う通りにしよう。」
「・・・分かった。」
舞と静香も車を降りた。
「行きましょ。」


「これを見るがいい。」
海馬コ−ポレ−ション社長室に通された遊戯達に、海馬はある画像を見せた。
「これはさっき、インタ−ネット回線を通じて送られてきたモノだ。」
そう言うと海馬がテ−ブルに置いてあるパソコンを操作した、壁の巨大モニタ−に映像が映し出された。
「あ、あれは!」
画像に映し出された人物を見た静香以外の3人は驚いた。
「ペ、ペガサス・・・。」
「ハロ〜、海馬ボ−イ。」
画像のペガサスが話し出した。
「この画像は本来、遊戯ボ−イに送ろうと思ったのですがネ〜。」
画像からペガサスが消えた、代わりに映し出されたのは・・・。
「杏子!」
「杏子さん!」
壁に画かれた魔法陣の前に、手を縛られ、吊るされている杏子の姿が・・・。
「遊戯ボ−イのガ−ルフレンドである彼女をココに招待しようとしたのですが・・・」
「招待だと!あの野郎が杏子を!!!」
「城乃内君、落ち着くんだ。」
遊戯が城乃内を椅子に座らせた。
「どういう因果か・・・、モクバボ−イまで招待する事になってしまったのデ〜ス。」
画像が少し動いた。吊るされている杏子の横で、モクバが壁に寄りかかって蹲っていた。
「さて、私の用件ですが・・・。海馬ボ−イ、遊戯ボ−イを決闘者の王国まで連れて来てもらいたいのデ〜ス。その時、遊戯ボ−イには3枚の神のカ−ドを持って来てもらってくだサ〜イ。私は遊戯ボ−イと神のカ−ドを賭けたちょっとしたゲ−ムを楽しみたいのデ〜ス。」
「そんな事の為に杏子を・・・。」
「では頼みましたよ、海馬ボ−イ。遊戯ボ−イを王国まで連れて来てくれたら、モクバボ−イはお返ししマ〜ス。」
そこで画像は終わった。
「という訳だ、遊戯。」
「杏子とモクバを連れ去ったのはペガサス。しかし・・・。」
「そうだ、あれはおそらくペガサスではない。」
「ペガサスじゃない?じゃあ、あれは一体?」
ドサッ!海馬は遊戯の前に新聞を投げた。
「見てみるがいい。」
遊戯は新聞を見てみた、約1ヶ月前の新聞だった。
「アメリカのI&I本社ビルの近くの高級マンションで奇妙な殺人事件があった・・・。」
遊戯もその記事に目を通していた、そして・・・
「警察では、殺人現場となったマンションの所有者であるフェニックス・J・クロフォ−ド!」
他の3人が遊戯の見ている新聞記事を覗き込んだ。フェニックスの顔写真が載っていたが、その写真の顔はペガサス・J・クロフォ−ドそのものだった。
「ペガサスは王国での大会の後、行方が分からなくなったと・・・。死んだと言う噂も流れているが真偽の程は分からん。だが!」
海馬が立ち上がった、4人は海馬に注目した。
「モクバを拉致したのがペガサスだろうが誰であろうが、オレは絶対許せん!」
「海馬。」
遊戯も立ち上がった。
「杏子もモクバと一緒に捕らわれている、ペガサス島まで連れて行ってくれ。」
遊戯と海馬の視線が交差する。
「よかろう。但し、島に着いてからはそれぞれの目的を果たす。お互いの事は忘れる事だ。」
「・・・分かった。」
「では2時間後に再びココに来るがいい、但しお前はフェニックスとやらの指示通りに、3枚の神のカ−ドを持って来なければならんだろうがな。」
「2時間後、だな?」
城乃内、静香、舞の3人も立ち上がった。
4人は海馬の部屋の出入り口に向かって歩き出した。
「遊戯!」
海馬が遊戯を呼び止めた。
「お前は気付いているのか?」
「・・・あぁ、何となくだがな。」
「そうか・・・。」
バタン!部屋のドアが閉められた。
(闇が・・・、闇が見えた・・・)
それが海馬の問いの答えだったのだろう・・・。
遊戯は感じていた、フェニックスと名乗る男の背後から感じられる“闇の気配”を・・・、そして千年パズルから発せられていた波動も・・・。
おそらく闇の力と千年パズルとが共鳴したのか・・・。
(千年アイテムの持ち主の仕業なのか?それとも・・・闇そのものか・・・)


2時間後・・・。
発信準備の出来ているヘリの前で海馬が腕組みをして立っていた。
「来たか・・・。」
遊戯、城乃内、舞の3人が再び海馬コ−ポレ−ションの敷地内に入って来るのが海馬からも見えた。
「遊戯、神のカ−ドは持って来たのか?」
「あぁ、この中に。」
遊戯が海馬に見せたのはかつてバラバラだった千年パズルが入っていた小さな箱だった。
「フッ、『神のカ−ドを持って来い』と言うからには、相手はデュエリストかもしれんな。オレも一応これを持って行くがな。」
海馬は足元に置いてあるケ−スを指差した。
「オレも持って来たぜ!」
城乃内がそう言うと、
「フン、凡骨デュエリストの貴様が意気込んでどうするというのだ。」
「何だと!海馬!」
海馬がヘリの方に歩き出した、ヘリにはパイロットは乗っていない。
「お前が操縦するのか?海馬。」
「あぁ、その方が色んな意味で安全なんでな。」
海馬がヘリの操縦席に、遊戯がその隣の席に、城乃内と舞は後ろの席にそれぞれ乗り込んだ。
「では離陸する、目的地はペガサス島!」
バリバリバリバリバリ!!!
4人を乗せたヘリがペガサス島目指して飛び立った。


「・・・神のカ−ドが動き出した・・・」
ペガサスの城、その奥の間に陣取ったフェニックスがワインを口に運んだ。
プルルルル、テ−ブルの上の電話が鳴り出した。
「・・・何デスカ?」
「ハッ、実はフェニックス様に雇われたと言う男女2人が島に上陸したのですが・・・。」
「Oh〜来ましたカ。城までご案内してくだサ〜イ。」
「承知いたしました。」
プ−、部下が電話を切った。
「・・・これで準備は整った・・・。」
「後は遊戯ボ−イが来るのを待つだけデ〜ス。」